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Interview

インタビュー

事業を大きくすることが地域貢献になる──協力隊で関係構築と経済性を追求した3年間

「地方で起業したい。でも、失敗したらどうしよう」
「協力隊に興味はあるけれど、任期が終わったあと、事業は続けられるんだろうか」

そんな不安を抱えながら、なかなか一歩を踏み出せないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そんな中、大きな一歩を踏み出した人がいます。

2022年12月、人材会社でキャリアを積んだ三牧航さんは、茨城県北地域おこし協力隊「KENPOKU PROJECT E」に参加しました。ご家族が東京で暮らす中、県北と行き来する二拠点生活。正直、楽ではなかったはずです。

けれども三牧さんは、3年間で地域に「意味」を残しました。

なぜ三牧さんは「県の信用」を借りることを選んだのでしょうか。地域で挑む本気の事業づくりとは。行政やコーディネーターとの協働で、どうやって地域でのビジネスをつかんだのか。

今回は、三牧さんご本人と担当コーディネーターの若松佑樹さん、そしてプロジェクト全体を見守ってきた堀下恭平の3人による鼎談形式で、リアルな3年間と卒業後の展望を語っていただきました。

三牧 航(みまき・わたる)

令和4年12月着任。株式会社シンカゼを設立。
関係人口創出、地域の課題解決のための人材支援プロジェクトとして、地域課題と副業・兼業人材のマッチングサイト「Otanomi」の運営や、地域の人事部事業(自治体・地域機関と共に官民連携で進める人材支援事業)に取り組む。

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若松 佑樹(わかまつ・ゆうき)

茨城県日立市生まれ。都内でITベンチャー、食と農のシンクタンク会社を経験した後、2014年より茨城県地域おこし協力隊としてUターン。2018年に日立市にて株式会社えぽっくを設立。副業や協力隊などの地域コーディネートを行う。2019年イタリア料理店「ベイカナーズ」を事業承継。2024年総務省地域おこし協力隊アドバイザー。

人材会社10年超のキャリアを経て、県北を選んだ理由

三牧さんが茨城県北地域おこし協力隊「KENPOKU PROJECT E」に応募したのは、2022年。人材会社で10年以上のキャリアを積んだ後、起業を決意していました。けれども、地方で事業を立ち上げるには、人脈も信用もない。そんなときに出会ったのが、コーディネーターの若松さんでした。

堀下

そもそも、なぜ茨城県北地域おこし協力隊(KENPOKU PROJECT E)に応募されたんですか?

三牧さん

きっかけは若松さんからの紹介です。実は仕事をやめる5年ほど前から起業したいと思っていて、地方創生の文脈で事業をつくりたいという思いがありました。

起業する2年ほど前から地域で副業を始めて、地域の実情や課題を知りたいと考えていました。そのなかで若松さんが経営する株式会社えぽっくの副業募集に応募したことが知り合ったきっかけです。

その際はご縁がなかったのですが、近々起業したいという想いもお伝えしていたところ、若松さんは定期的に情報提供をくれていて、その中でプロジェクトEの紹介をいただきました。何者でもないという起業したての段階で、県という強力なバックアップ体制があるということが後押しになり、応募しました。

県の職員さんのサポートでたどり着いた「地域の人事部」

県のバックアップは、想像以上に具体的で、実践的なものでした。三牧さんが着任して最初の3カ月、県の職員さんが市町村へのアポ取りをし、同行してくれたのです。

堀下

実際のところ、県のバックアップや協力は、三牧さんの事業が始める時に本当に助けになりましたか?

三牧さん

めちゃくちゃ助かりました。「そこまでやってくれるんだ」と最初はすごく驚いたんですけど、来て最初の3カ月の間、自治体で自分の事業と相性がいいところに、県の職員さんがアポを取って、同行・同席してくださいました。その中で、僕は「地域の人事部」という存在も初めて知ったんです。

堀下

当時はまだ知らなかったんですね。

三牧さん

そうです。「三牧さんがやりたいことって地域の人事部と同じじゃないか」みたいな話を市町側から言われて、「じゃあ一緒にできるよね」という場をつくれたのは、県の人が一緒にいて、話を引っ張ってくださったからです。

地域の人事部は、経産省が推進する官民連携の人材支援策で、自治体・商工会・産業支援機関・民間企業が一体となって地域の人材支援をしていくプロジェクト。県北では令和4年から始まり、日立市・常陸太田市・大子町の3地域で展開しています。

都市部でスキルを磨いてきたビジネスマンが驚いた「関係資本」の大切さ

都市部で10年以上ビジネスをしてきた三牧さんにとって、地域でのビジネスは想像以上に違うものでした。特に、行政や地域企業との関わり方には、大きなカルチャーショックがあったと言います。

地域の関係性づくりに慣れるまで、半年ぐらいかかったという三牧さん。都市部では、提案の論理性や数字で勝負できたけれど、地域では「誰に誰が言うか」が重要になる。そのギャップを埋めるために、県の職員さんやコーディネーターの若松さんが、大きな役割を果たしました。

三牧さん

今までtoBのビジネスをやってきた中で、toG(対行政)ビジネスでは、全然やり方が違うなというか。言葉・文化・ルールが違うなというのを感じて、僕が1人でやろうと思うとやっぱり難しかっただろうなと思っています。コーディネーターの若松さんや県の方々の支援のおかげで理解がバッと早く深まりました。

一番はやっぱり関係資本の重要性みたいなものを感じていて。僕がマネジメントをしている際、都内とかで営業してるメンバーに「担当者と仲良くなれ」とかあまり言ったことがないんですよね(笑)。

堀下

ま、そうですよね(笑)。

三牧さん

仲良くなれたらいいけど、それよりも提案のここをこうしようという、ロジックで改善していくみたいなのがあるんですけど。地域ビジネスって、関係性の構築がとても大事なんだなっていうのは、価値観がすごく変わった部分です。

堀下

それって、結構カルチャーショックでしたか?

三牧さん

そうですね。今でも地域でご一緒している機関さんが、僕のことを紹介する時に「県の協力隊でもやっている三牧さんなんです」という紹介の仕方をしてくれていて、そこが入り口として地域の企業さんと関係性を構築しやすかったです。よそ者感が少しでも和らぐというか。

「Otanomi」と地域の人事部が生み出す雇用創出

三牧さんが立ち上げ、現在も取り組まれている事業の具体的な内容を改めて見ていきましょう。

堀下

改めて三牧さんのやっていることを教えてください。

三牧さん

会社としては人材支援を中心にやっています。その中でも県北エリアで注力しているのが自治体や地域機関と共に推進する「地域の人事部」という取り組みです。

地域の人事部の主な事業メニューは4つあります。

1つ目は社員採用支援。正社員を採用したい企業に対して、人材紹介を活用するより1/2〜1/3のコストで採用するための支援を行います。

2つ目は副業人材採用支援。「Otanomi(オタノミ)」という地域特化型の副業人材マッチングプラットフォームを運営し、都市部の副業人材を県北に呼び込んでいます。これは県北に来た時に一番進めたかった事業です。

3つ目は幹部人材の研修支援。後継者を育てるためには幹部人材から育てていかないといけないということで、今年度から地域企業複数社の幹部候補の方々、自治体職員、地域機関の職員も一緒になって合同幹部研修とコミュニティ形成の活動をやっています。

4つ目はこれらの活動に対する広報活動(事例や情報発信)です。

コーディネーターの若松さんが見た三牧さんの強み──「面的に動かす力」

堀下

一緒に3年間やっていただいたと思うんですけど、若松さんから見た三牧さんが来ていただいてよかったポイントは?

若松さん

三牧さんは面的に動かすために自治体や関係機関と連携するということを大事にされていました。

僕も協力隊出身で関係性はあるものの、企業さんと直接やりとりをすることも多くて、相性の良い企業さんとつながって、狭く深くやることが多かったんです。

まだまだ県北で知らなかった企業さんや、課題を持ってる企業さんがいっぱいあるんだと気づけたのは、関係機関さんと連携できたからこそ見つけられたものだなと感じています。

堀下

それはスキルセット的な話で言うと、三牧さんの営業力ですか?

若松さん

営業力と信頼。信用信頼ありきの営業力だと思います。

商工会さんや産業支援センターさんと一緒に事業をやっているので関係機関のネットワークとも連携できる。ダイレクトに企業さんや市町村だけじゃないアプローチされているので、そこは新しい入り方だなと感じています。

三牧さんのように、地域で事業を立ち上げたいと考え始めたら、
まずはKENPOKU PROJECT Eの全体像を知ることから始めませんか。

まずは募集要項を見てみる

事業を大きくすることが地域貢献になる

3年間の活動を振り返り、三牧さんは「事業をカタチにできたことがよかった」と語ります。けれども、その裏には、1年目の試行錯誤の日々がありました。

堀下

率直に、県北に来てよかったですか?

三牧さん

よかったです。

堀下

何が1番よかったですか?

三牧さん

やっぱり事業をカタチにできたことがよかったなと思っています。1年目は、とにかくがむしゃらに行動。まずやってみる。会ってみる。伝えてみる。1次情報を自ら取りに行き、解像度を高めていきました。当初考えていた事業やサービスを、ビジネスモデルとしてどれだけ成り立たせるかを考えると、当初はまだすごく不安定な状態でした。

その後、地域市場や地域企業の課題やニーズの理解が深まり、この地域のためのサービスが磨かれ、提供できる価値も高まり、自治体や地域機関からもご依頼いただけるようになってきたので、ここで持続的に事業をする価値や意味ができてよかったなと思います。

協力隊だからこそ、経済性・拡大性を持つ事業へのチャレンジを

堀下

三牧さんから見て、どういう人が茨城県北地域おこし協力隊(KENPOKU PROJECT E)に合うと思いますか?

三牧さん

「地域にとっていいことだし、ちゃんと儲かる」という社会性と経済性の両面を強く持つことが大事だと思っています。特に経済性を成り立たせるための土台が不可欠です。

都市部から地域に来る方は「地域貢献したい」という社会性(地域にとっていいこと)を強く持っている方が多いです。そして、その想いを多くの方に、持続的に届けて、本気で地域を強くするためには経済性(儲かること)が不可欠。でも経済性を身につけるには、ある程度時間をかけて、実践を積み重ねたり勉強したり、知識や経験などの筋肉を身につける必要があります。

そのため、ある程度のビジネスに対する筋肉・土台を持っている方に協力隊にチャレンジしていただいて、「地域にとっていいことだし、ちゃんと儲かる」を一緒につくっていけると嬉しいです。

卒業後も事業継続し、さらに全国の地域へ

3年間の任期を終えた後も地域での事業は終わりません。むしろ、県北で培ったモデルを全国に広げる新たなステージが始まります。

堀下

協力隊を卒業された後はどのようにお考えですか?

三牧さん

はい。県北地域で事業を続けていきます。

まだまだ課題も多く、「次年度こうしてほしい」というお声を多数いただいていて、最近は都市部で県北出身の方とか、いろんな方を巻き込もうというかたちで仲間づくりも並行してやっています。

もともと構想していたのは、県北から始まっていろんな地域に派生させていきたいなという思いでした。地域の人事部というのが全国に北海道から沖縄まで50以上存在しているのですが、今はその「伴走支援事業」の採択をいただいていて、地域の人事部を立ち上げたけど何らかの事業課題がある地域に対して、一緒に事業づくりをするための後方支援を行っています。

そういったかたちでさまざまな地域へ情報・ノウハウを提供しつつ、広域連携で他地域と一緒に事業づくりをし、地域から日本を元気にしていきたいと思って挑んでいます。

「ここじゃなくていいでしょ」から「三牧さんだから」へ

三牧さん

僕の中の葛藤の1つだったんですけど、活動をする中で「ここじゃなくていいでしょ」みたいな話をずっとされてきていて、実際そうなんですよ。絶対に県北である必要はないと思うんですけど。

ただ、僕を選んでくれる理由や残る意味を3年間でつくれたなっていうのはよかったなと思っていて。いろいろな方から次年度の要望をいただくので、それをちゃんとかたちにしていかないといけないなと思っています。

未来の応募者へ──「事業を大きくする」という覚悟があるか

鼎談の終盤、三牧さんは未来の応募者に向けて、力強いメッセージを残してくれました。

三牧さん

まもなく3年間の任期を終えますが、まず本当に感謝しています。めちゃくちゃいろんな人に助けていただいたなっていう感謝が1番強いです。

よくも悪くも初めに掲げたものは思い通りに行かないです。僕もそうだったので。事業計画とかサービスも含めて思い通りに行かないんですけど、ちゃんと現場を見てリアルを見てかたちにしていって、持続的にここで事業をする意味をつくっていければ、自然と地域貢献にはつながっていきますし、困っている人もすごく多いという実態があります。

事業をちゃんとつくるぞ、大きくするぞということをしていかないと、このプロジェクトEのミッションである雇用創出や経済発展につながらないので、自分の生活費があればいいとかではなくて、いろんな人を巻き込んで大きくしていく、価値を高めていくという強い意思を、応募者の方には初心としては持っていただきたいなと思います。

(鼎談ここまで)

三牧航さんの3年間は、「事業をかたちにする」挑戦の記録でした。

都市部で培った10年以上のキャリアを武器に、県の信用を借り、コーディネーターと二人三脚でtoGビジネスの特殊性を乗り越えた。そして、個別支援ではなく「面的な」人材支援ネットワークを構築し、都市部人材と地域企業をつなぎました。

「事業を大きくする」覚悟と土台。
「社会貢献」と「経済性」を両立させる哲学。

三牧さんが語ったように、事業を大きくすることが、結果として雇用を創出し、地域に貢献する。それは、綺麗ごとではなく、3年間のリアルな実践から導かれた答えでした。

卒業後も、県北との関わりは続きます。そして、県北で培ったモデルは、全国の地域へと広がっていきます。

その姿は、地方創生を「慈善活動」ではなく「持続可能なビジネス」として捉え直す、新しい地域との関わり方を示しています。

挑戦する人がいてこそ、初めて生まれる未来です。

みなさんも、自分のスキルと経験が、地域で活きる可能性を、少しだけ想像してみませんか。小さな一歩が、次の物語を紡ぎ始めるかもしれません。

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